一般貨物自動車運送事業の合併認可申請

 先月、一般貨物自動車(トラック)の合併認可申請手続が無事に終了しましたので、内容を少しご紹介したいと思います。

※本記事は特定防止の観点と、話を分かりやすくする観点から、一部内容を簡略化しています。

 

【1】 合併認可申請手続きの流れ

 

 合併認可申請の基本的な手続と流れは、上図の通りです。合併法人が既存の許可業者か否かで、申請の添付資料の内容や役員の法令試験の要否が異なってきます。

 今回の合併当事者の概要は次の通りとなります。

・合併(存続)法人:一般貨物の許可を有しない事業者

・被合併(消滅)法人:一般貨物の既存許可業者で合併法人の100%子会社

 従って、合併会社の役員が法令試験を受け、合格する必要がありました。

 なお、標準処理期間は3か月とされていますが、事前に運輸支局の担当官に確認したところ、M&Aや事業承継の関係で分割や合併の申請件数が増えているため、申請から認可までに5カ月程度は要す見込みとのことでした。

 そのため、ご相談をいただいた当初は、かなり早い合併効力日を想定されていたのですが、認可手続が間に合わないことをご理解いただいき、合併期日を変更していただいた経緯があります。

 今回は約4か月程度での認可となりましたが、M&Aや事業承継を検討されている方は余裕を持ったスケジュール感で進めるのが肝要です。

【2】 認可申請の処理方針について

 合併や分割などの許可を承継する手続は新規扱いではなく、事業計画の変更に該当します。そして、事業計画の変更については「一般貨物自動車運送事業の事業計画変更等に関する処理方針について」という規定に従って認可の適否が判断されます。

 今回の事案では、この処理方針に規定されている条件の1つである「法令遵守」という項目に抵触する可能性があったので、関係する内容を抜粋してご紹介します。

処理方針 前文

一般貨物自動車運送事業の事業計画変更等については、平成15年2月28日付けで公示した「一般貨物自動車運送事業及び特定貨物自動車運送事業の許可申請の処理方針について」(以下「公示基準」という。)に定めるところによるほか、下記により処理することとしたので公示する。

1.(7)法令遵守

事業計画の事業規模の拡大となる申請については、イ~ヘの全てを満たすものであること。

 申請日前6ヶ月間(悪質な違反の場合は1年間)又は申請日以降に、当該申請地を管轄する地方運輸局長又は当該申請地を管轄する地方運輸局内の支局長から貨物自動車運送事業法又は道路運送法の違反による自動車その他の輸送施設の使用停止以上の処分又は使用制限(禁止)処分を受けた者(当該処分を受けた者が法人である場合における当該処分を受けた法人の処分を受ける原因となった事項が発生した当時、現に当該処分を受けた法人の業務を執行する役員として存在していた者を含む。)でないこと。

 申請日前3ヶ月間又は申請日以降に、申請に係る営業所(営業所の新設を行う場合にあっては、申請地を管轄する地方運輸局内における全ての営業所)に関し、地方実施機関が行う巡回指導による総合評価において「E」の評価を受けた者でないこと(当該巡回指導により指摘を受けた全ての項目について、当該巡回指導に係る地方実施機関に対して改善報告を行っている場合を除く。)。

 申請日前3ヶ月間又は申請日以降に、当該申請に係る営業所に関して、自らの責による重大事故を発生させていないこと。

 申請に係る営業所を管轄する運輸支局内における全ての営業所に配置している事業用自動車について、有効な自動車検査証の交付を受けていること(特別な事情がある場合を除く。)。

 貨物自動車運送事業法第60条第1項及び同項に基づく貨物自動車運送事業報告規則による事業報告書、事業実績報告書及び運賃・料金の届出並びにその他の報告の徴収について、届出・報告義務違反がないこと。

 施行規則第12条に該当する場合を除き、運送の役務の対価としての運賃(以下「運賃」という。)と運送の役務以外の役務又は特別に生ずる費用にかかる料金(以下「料金」という。)を区分して収受する旨が明確に定められている運送約款を使用していること

  事業計画の変更のうち、増車については申請者又は届出者が当該申請又は届出に係る地方運輸局長等から車両使用停止以上の処分を受けている場合増車実施予定日において、その処分期間が終了しているものであること。

4.合併、分割又は相続の認可

(1) 合併若しくは分割により事業を承継する法人又は相続人について、「公示基準」Ⅰ.1.~14.(合併又は分割後に存続する事業者若しくは相続人が既に一般貨物自動車運送事業の許可を受けている場合にあっては、「公示基準」Ⅰ.1.~8.及び10.~14.並びに上記1.(7))に適合するものであること。

(2) 分割の認可については、分割後において存続する事業者が、「公示基準」Ⅰ.2.の基準を満たさない申請については、認可しないこととする。

※国土交通省「一般貨物自動車運送事業の事業計画変更等に関する処理方針について」より引用 全文はこちら https://wwwtb.mlit.go.jp/kyushu/content/000229190.pdf

 さて、ここで「一般貨物自動車運送事業及び特定貨物自動車運送事業の許可申請の処理方針について」、いわゆる「公示基準」とよばれる規定も参照しないといけなくなりました。公示基準もボリュームがあるため、法令遵守に関する箇所のみ抜粋します。

公示基準

Ⅰ.9.法令遵守

(1) 申請者又はその法人の役員は、貨物自動車運送事業の遂行に必要な法令知識を有し、かつ、その法令を遵守すること。

(2) 健康保険法(大正11年法律第70号)、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づく社会保険及び労働保険(以下「社会保険等」という。)の加入義務者が社会保険等に加入すること

(3) 申請者又は申請者が法人である場合にあっては、その法人の業務を執行する役員(いかなる名称によるかを問わず、これと同等以上の職権又は支配力を有する者を含む。)が、貨物自動車運送事業法又は道路運送法の違反により、申請日前6ヶ月間(悪質な違反については1年間)又は申請日以降に、自動車その他の輸送施設の使用停止以上の処分又は使用制限(禁止)の処分を受けた者(当該処分を受けた者が法人である場合における処分を受けた法人の処分を受ける原因となった事項が発生した当時現にその法人の業務を執行する役員として在任した者を含む。)ではないこと。その他法令遵守状況に著しい問題があると認められる者でないこと。

(4) 新規許可事業者に対しては、許可書交付時等に指導講習を実施するとともに、運輸開始の届出後1ヶ月以降3ヶ月以内に実施される地方貨物自動車運送適正化事業実施機関の適正化事業指導員による巡回指導によっても改善が見込まれない場合等には、運輸支局による監査等を実施するものとする。

※関東運輸支局HPより引用 全文はこちらhttps://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/jidou_koutu/kamotu/kamotu_jigyoukaisi/date/syorihousin_191101.pdf

【3】 役員の連座制について

 今回の事例では、合併会社の役員さんがグループ企業内の他の運送事業者の役員も複数兼務されていたのですが、そのうちの1社(他の運輸局管轄内の営業所)に対して、輸送施設の使用停止処分が課される可能性が高いことが認可申請の後に判明しました。これは、公示基準Ⅰ.9.(3)に該当することになるため、合併の認可申請を取下げしなければならない状況を意味します。いわゆる役員の連座制で、処分逃れ防止の観点からの措置となります。そして、申請を取下げた後も6か月間(悪質な場合は1年間)は再申請できないことになり、合併による組織再編は大幅な見直しが必要となります。

 今回は元々、合併の効力発生日前の早い段階で役員変更が予定されていて、連座制の適用対象であった役員さんも退任することになっていました。そして、運輸局の担当官に相談した結果、認可申請後の役員変更を内容とする「合併認可申請の追加申請」手続を行うように指示があって対応したところ、無事に認可を受けることができました。本当に運が良かったと胸をなでおろしました。

【4】 まとめ

 私たちの過去の経験では、営業所を新設や車庫の拡張などの事業計画の拡大に該当する認可申請をした際、上述した「処理方針1.(7)①ニ」の車検証切れ車両があったり、「同ホ」の事業報告書や事業実績報告書などが提出されていなかったりすることがありましたが、事後対応を適切にすることで認可が受けられました。

 今回は役員の欠格事由や連座制について改めて学ぶ機会となり、今後は運送事業者間のM&Aや組織再編などでは注意すべき点として、教訓を活かしたサポート提供に努めます。 当事務所では、一般貨物(トラック)事業の組織再編手続に関してもサービスを提供しています。ご相談の際は、ぜひお気軽にご連絡をください。

  

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